私たちについて

私たちのミッションと「火にかける想い」

「火」は古代から人類に多くの恵みをもたらし、歴史と生活に根ざしてきました。
そしてその恩恵は、慌ただしい現代を生きる私たちにこそ、より一層必要になってきています。
炎の揺らめきと、暖かさ。火の中に見る影や、燃え尽きる焚き木の音。それらは私たちの心に、静けさと癒しをもたらしてくれます。
火は、人間の結びつきとコミュニケーションの中心にもなりえます。
星空の下で炎を囲み、物語を語り、家族や友人と特別な時間を共有する。心に刻まれた温かな記憶は、大切な人たちとの絆をより深く、より強くしてくれます。
私たちのミッションは「より多くの人が、この”火”という最高のギフトを、もっと身近に、日常的に楽しめる世界を実現すること」。
ここでは、私たちがその志に至った軌跡を綴ります。

私はAgniz.を創らなければならなかった

「自然はいつも、当たり前にそこにあるものでした。子供の頃までは」
Agniz.の創業者・八重樫知剛。岩手県北上市に生まれた彼は、その広大な大地の中で幼少期を過ごしました。
北上川、安比高原、岩洞湖。自然を愛する母に連れられ、家族で様々な土地に出かけたといいます。
「今思えば、北米の大地のような、どこか日本とは思えない雄大さがあった」
八重樫は当時をそう振り返ります。
その暮らしの中で、彼は自然への理解を深め、同時に、それらに対する感謝や畏敬の念を育んでいきました。
彼にとって、”自然はいつも、当たり前にそこにあるもの”でした。子供の頃までは。
やがて成人した彼は、家業である小売業を手伝い、生計を立てていました。30kgを超える、ダンボール詰めの商品を1日中運搬するハードワーク。加えて、売上維持のための頭脳労働も求められ、精神も疲弊する毎日でした。そして、変化の激しい時代における、先の見えない不安。「この小規模な小売業に未来はあるのか」「自分の将来はいったいどうなるのか」彼は心身ともに、常に疲れ果てていました。
そんな毎日を過ごす中、ある日、自宅の倉庫の片隅にある、1つのウッドストーブが目に留まります。
友人からもらった品で、受け取ったきり倉庫の隅でホコリかぶっていました。
その日はどういう風の吹き回しか。気付いたら、薪をくべて、火をつけていました。
「焚き火なんていつ以来だろう」
炎の揺らめきを眺めていると、胸の内は不思議なほど静まっていき、気付くと深い安らぎの中にいました。そして脳裏に浮かび上がってくる、幼い頃の記憶。それは岩手の雄大な自然の中で、家族と囲んだ焚き火の思い出でした。ワカサギ釣りに行った真冬の岩洞湖。凍結した湖面にテントを立て、火にあたりながら食べた天ぷらの美味しさと暖かさ。
「焚き火の素晴らしさを思い出させてくれた出来事でした。いや、そのとき初めて、本当の意味で焚き火の価値を理解したのかもしれません」
それからというもの、毎晩火を焚いて、仕事の疲れを癒すのが日課になっていました。忙しい日々の中で、絶景を見に出かける時間は滅多にとれない。けれど焚き火をするだけなら、仕事のあとでも時間を作れる。彼は、焚き火に触れることで、いつの間にか失っていた自然との接点を取り戻していました。

「無いなら自分で作るしかない」

焚き火が日課になった彼は、次第にいくつかの不満を抱えるようになります。
例えば、火を熾すまでの煩わしさ。
焚き火の準備を始めてから、火を安定させるまでにはいくつもの工程があります。まずは買ってきた薪を割り、様々なサイズのものを用意。実際に火をつけたら、丁寧に火を育てていかなければいけません。くべる燃料は初めは小さなもの、そして少しずつ少しずつ大きなものへ。注意深く、気を抜くとせっかく熾した火もあっさりと鎮火してしまいます。
日々の煩わしさから離れるために焚き火をするのに、薪割りや火おこしなどの別の煩わしさが伴うという矛盾。
それに焚き火は好きでしたが、そこから出る煙は好きになれませんでした。浴びれば目に染み、咳も出て、身体に臭いも付いて不快。酷いと近隣へも広がり、迷惑をかけてしまいます。
もっといえば、焚き火台のデザインにも満足できていませんでした。添い遂げるまで使い続けるには、自分が納得できるビジュアルも必要だと強く感じるようになります。
これらの問題を解消できないかと、様々なメーカーの焚き火台を購入し、使ってみました。しかし、いくつ試しても納得できるものがありません。
「存在しないのなら、自分でつくるしかない」
8つ目の焚き火台に見切りをつけたところでした。痺れを切らし、彼の足は自然と町工場へと向かっていました。
知り合いに鉄鋼関係者はおらず、見ず知らずの工場へ飛び入りで依頼するしかありません。「プライベートで使う焚き火台のために、そこまでするか?」周囲の友人たちには呆れられました。
それでも彼を突き動かしたのは、「火」という存在への、焦がれるほどの切望でした。
日常の中に、焚き火という存在を溶け込ませたい。
その熱意に共感してくれる工場と出会うことができ、オリジナルの焚き火台づくりをスタート。「高い燃焼効率」「煙の排除」「新しい2次燃焼機構」そして「デザイン」。焚き火の理想をすべて詰め込むため、試行錯誤の毎日。実に3年の歳月を費やしました。

人の使命とはそういうものなのかもしれない

完成が間近に近づいてきたころ、彼の頭の中で、とある考えが芽生えます。
無我夢中で取り組んできたこの焚き火台開発。それは自分の欲求を満たすためだけに行ってきた。そのつもりだった。
ただ、自分がやりたかったこと、その本質は、焚き火というこの素晴らしい古代の文化・遺産を、現代のライフスタイルにアップデートさせることなのでは?
焚き火の価値は疑うべくもない。だけど、火を熾すまでにかかる手間は、何かと忙しない現代の暮らしに向くものではなく、少なくとも日常的に行えるものではない。立ち広がる煙も、家屋が隣接する現代の住宅環境にはそぐわない。だが、何にも代え難い癒しを与えてくれる焚き火は、むしろ現代人にこそ必要なものだ。
ずっと感じていたこれらの課題は、よくよく考えれば自分だけの悩みではなく、現代人共通の悩みではないか?
であれば、自分だけのために作ったつもりだったこの焚き火台は、実は世の中に必要であり、求められているものだということだ。
実際、開発の最中にも、この焚き火台を求める声が周囲から聞こえてきました。友人知人とこの焚き火台で焚き火をすると、皆がその使い心地と炎の雄大さに驚き、感激します。近所に住む知人や小学校に「この焚き火台を売ってほしい」と頼まれることもありました。
彼は熟考に熟考を重ねた末、起業することを決意しました。
この焚き火台を、世の中の人たちに届けるために。
迷いも恐れもありました。志だけで立ち行かないのがビジネスの世界。リスクとは常に隣り合わせの生活が待っている。
ただ、かつての自分のように、日常に焚き火を切望している人は絶対にいるはずだ。
火を毎日の暮らしの拠り所とすることで、救われるであろう多くの人たちが。
そういった人たちのためになるなら、自分の人生を掲げる価値はある。
そう思えました。
こうして株式会社Agniz.(アグニス)は創立されました。
アグニとはインドの火の神の名です。焚き火台を始めとして、火にまつわる、火を楽しむためのプロダクトをつくり出していくという意志を表しています。
「火」という存在は、この自然界において、最も偉大で尊い恵みの1つです。
私たち人間を、時には照らし、時には暖め、そして、深い安らぎを与えてくれます。
始めはただ、自分のための焚き火台を作っていただけでした。
それが誰かの役に立つなんて、想像もしませんでした。
でも今は、より多くの人が、この「火」という最高のギフトを、もっと簡単に、日常的に楽しめる世界を実現したい。
自分のために始めたことで、世の中を良くできる。こんなに嬉しいことはありません。
でも、使命とはそういうものなのかもしれません。
自らの手で掲げた志で道を灯し、私たちは進み続けます。